20秒を切ってから


   このレベルのあなたは,もはや福岡市消防局の代表として県大会に出場できる貴重な人材です。あなたの力は,福岡の消防力そのものに見られるのです。

気を引き締めて,努力を重ねましょう。

  現在では,県の施設で18秒くらいのタイムでなければ九州大会に出場できないようで,一昨年は16秒台でした。厳しい戦いになります。

   20秒を切ってからは1秒1秒が1つのステップです。1秒の差が絶対的な力の差となり,大きな壁となって目の前に立ちはだかるのです。

  ここからが,頑張り所です。

   17秒くらいの頃,私は手幅を大きくするために肘を完全に伸ばしてロープをつかむ事に専念しました。

   もちろん,静的な状態で負荷がかかって完全に伸びきった肘を曲げ始めるには,莫大な力が必要で,無理も生じます,

   これをカバーするためには,足の反動と瞬間的な肩の返しで腕の力を使わず,肘の角度を力が出しやすいところまでもっていくことが必要です。

   伸ばした腕でロープを握ったら,瞬間的に肩の力を使って強く引くのがポイントです。

 私は,この方法で30歩の手数を定着させ,筋力のセーブが出来るようになりました。

 
   これで,16秒は約束されます。


   さらにスピードを増すには,ピッチを速くするわけですが,1歩が0.5秒なら15秒でゴールできる計算です。

   実際に登らず,腕だけ動かしてみると,このスピードは速いようで意外とゆったりした動きだと判るでしょう。

   
   皆さんは,ロープ渡過のセーラーで,どのくらいのタイムを出しているでしょうか?

   多分10秒前後だと思いますが,20mをそんなに速く進めるのですから,正味13mの登はんで,もっと速くなっても不思議ではありません。

   ピッチを速くするために,私は軽い負荷をかけたロープ引きをよくやりました。

   良いタイムで登った時の腕と手のひらの感覚は,全力疾走するときの脚の感触に似ていて,地面を蹴ってぐいぐい加速するような感じがあります。

   この感触は実に気持ちのいいもので,皆さんにも速く味わってもらいたいと思います。

   しかし,ピッチが速くなってからも前述の肘を伸ばす方法に執着しすぎると,スピードが乗りにくくなってしまいます。

   意識し過ぎることなく,自然に流れるような動きの中で腕が十分に伸びればタイムは良くなるでしょう。

   記録が良くなってきたら,1日中ウエイトを付けて登るような訓練方法は止めましょう。

   一定期間ずっとウェイトを付けて登っていると,外した時には確かに身体が軽く感じますが,全身に力が入りすぎてフォームが崩れ,スピードが出なくなります。

   ウェイトを付けるのは,空身で登った後の何本かにしておくと良いと思います。

   私は,後半のスピードダウンを少なくすることが出来るようになって,14秒台のタイムが出るようになりました。

   そのために行なった訓練は,11mの高さまでの登りを2本立て続けに登るという方法でした。なぜ11mかというと,勤務している出張所ではその高さまでしかロープを設定できなかったからです。

  1本目は9秒台でも2本目は15秒くらいかかりました。


 この訓練を1日1回やることで,乳酸と戦える体が出来てきたようです。

   また,登る前に深呼吸を何回か繰り返し,全身に酸素を十分に取り込んでおくことも重要だと思って以前から続けています。

   ベストタイムを出すには,当然ですが自分の持つ力の全てを出し切らなければなりません。人間は,自分の筋肉の損傷を防ぐため,全力を出したつもりでも無意識に筋肉の収縮を加減してしまうのですが,この自己防衛本能を打ち破る必要があります。

   それには,精神状態が重要で,よく「気合を入れる」と言いますが,極限まで集中し,一瞬で身体中の全エネルギーを爆発できるような興奮状態に自分の身体を高める必要があります。

   わかる人には,身体から立ち昇るオーラが見えるかもしれません。

   火事場の馬鹿力を自分でコントロールして引き出せるようにならねばならないのです。

   また,その状態に入った人に対して周りの人は話し掛けたり,冗談を言ったりしてはいけません。

   応援の声すら邪魔に感じることもあります。

   スタートの方法もタイムを左右する重要な要素の一つですが,人それぞれいろいろな型があって自分の好きなようにやるのが一番です。

   各自研究して自分にぴったりの方法を見つけてください。ちなみに私は,右足のジャンプ力がないため両手で一気に引き付ける腕力重視の方法です。

力が同じで体重が軽ければ当然良いタイムが出るはずですが,正直なところ減量については良くわかりません。

   一度3キロほど減らしたことがありましたが,力が出なくなりタイムは変わりませんでした。以来,意識して減量していません。
 

   しかし,九州トップクラスの選手たちはウエイト調整にかなり気を使っているようで,彼らの中では,私が最も体脂肪率が高いのではないでしょうか。(体脂肪を測る機械では測定できない人が何人もいます。)